ずっと天気が悪いという予報だったので、日食にはあえて関心を持たないようにしていた。これまでのジンクスとして、ちゃんと準備をすると、きまって期待を裏切られる結果となるからだ。
ところが土曜日になってみると、天気予報が晴れマークになっている! さて、どうしよう。近所にできたカメラのキタムラの表に、日食グラス在庫ありますという看板が出ていたので、2009年の騒ぎで売り切れ続出になり、今回は大量に用意して在庫が余っているのだろうと思っていたのだが、昨日買いに行ったところ、売り切れ。タッチの差だったらしい。近所のホームセンターにもなく、吉祥寺のヨドバシカメラに電話をしても売り切れだと言われてしまった。その後、予報がどんどん悪くなっていくので、どうせ見られないだろうとあきらめる。
今朝は黒犬の散歩の途中、だんだんと雲が晴れてきて、通りがかりの家の人に、欠け始めた太陽を通りがかりに見せてもらった。日食グラスなるものを初めて使ったが、予想以上に大きく見えるのに驚く。手を伸ばした先に持った5円玉の穴ぐらいにしか見えないと聞いていたのに、視覚上の錯覚もあるのだろうか、これなら充分見応えがあり、リアリティがある。しまった。もっと本気で手に入れておくべきだった。
散歩から帰宅して、あわててピンホールカメラを作ることにした。何か筒や箱はないかと探したが、適当なのがない。仕方なく、捨て損なっていたカメラのレンズの空き箱の天地をはがし、対物側にはアルミホイルを貼って画鋲で穴を開け、接眼側にはトレーシングペーパーを貼った。わが家の東側は隣のマンションの駐車場になっていて、視界が開けている。そこから見てみたが、いちおうちゃんと欠けて見える。しかし、箱が小さいせいで、像が小さい。子どもの頃の記憶では、直径1センチぐらいにはなっていたはずなのだが……。
妻は近所の公園に出かけて、見せてもらったという。だんだん周囲が暗くなってくる。曇ってきたのかと思って朝食の準備に追われていたら、太陽が欠けてきたせいだった。また妻が公園に行き、見せてもらったところ、この即席ピンホールカメラとは段違いにくっきり見えていて、しかももうほとんど欠けているそうだ。仕方ない。公園に行ってみよう。
入口にいたおばさんが、自分のグラスをみんなに見せてくれている。覗いたとたん、完全な金環食が見えた。きれいだ。それに比べてわがピンホールカメラは、いちおうリングになっているものの、中心の影が小さく、とても金環食とは言えない。ピンホールが正円じゃないせいなのか、あるいは穴の径が大きすぎたのか。
その後どんどん雲が厚くなる。ほんの一瞬、偶然にも雲間からリングが見えたのだ。写真を撮っていいと日食グラスをまた貸してくれたが、片手でグラスをかまえて、もう一方の手でカメラを覗くのは無理だった。自分の日食グラスがあったなら、思う存分使えたのだが……。
その後、通りがかった知り合いの犬仲間に、公園の隅にある倉庫(物置)の壁に映った木漏れ日がきれいだったと聞いて、見に行く。雲に半分隠れてしまっているので、あまりくっきりとは見えない。しかし、影のなかに三日月形の光が散らばっている。自然現象は、こうやって見たほうが、風情があり、味わい深い。
見上げると、ちょうど薄い雲越しに欠けている太陽が見えた。これなら、何も付けないで撮れる! 家に飛び込んで、70-200mmにエクステンダー1.4をかませ、窓から手持ちで撮影する。ちょうど雲が厚くなったときを見計らって光学ファインダーで近くの雲にピントをあわせ、あとはライブビューに切り替えて何枚か撮った。エクステンダー、あまり使う機会もないし、バランスが悪くなってEOS Kissではシンドイので手放そうと思っていたのだが、スーパームーンでもこの日食でも、やはりあってよかったと思う。
公園で親切な人にちょうどいいタイミングで日食グラスを借りられ、素晴らしい金環食を見ることができて、ほんとにラッキーだった。雲の厚さがちょうどよく、何も装備なしで、手持ちの機材で撮れたのもよかった。しかし、準備不足は明らか。他力本願になってしまい、心残りな日食体験だった。
あわてて作ったピンホールカメラ。なんとも恥ずかしい出来。
接眼面のトレーシングペーパーに写った太陽。いちおう、欠けていくのが見える。
穴が正円でないのかもしれないと思い、いくつも穴を開けてみた。いちおう、リング状になっている。このとき、日食グラスではきれいな金環食が見えていた。トレーシングペーパーを貼ったが、この曇り具合が粗く、けっこうムラがある。もっときめ細かなもの(スーパーのレジ袋など)を貼ればよかったのかもしれない。
いつもなら気功体操やジョギング、犬の散歩でにぎわう時間帯。みんな太陽を見ている。
東に向いた倉庫の壁。木漏れ日が三日月形になっている。幻想的で美しい。
あわてて家に飛び込んで、70-200mmを装着。その200mm側で。APS-Cなので、35mm換算で320mm。もしずっと家にいれば、雲越しにリングが撮れたかも……。
エクステンダー1.4をかます。35mm換算で448mm。
雲がどんどん流れてちょっと薄くなった瞬間に、ボーッと欠けた太陽が浮かび上がる。ドラマチックだ。
さきほどのカットより3分後。だんだん月が左下へと移動していき、太陽が太ってきたのがわかる。このあとはぐんぐん明るくなって、とても撮影できる状態ではなくなってしまった。